中央区湾岸タワーマンション市場の動向
マンションリサーチ株式会社の調査によると、2023年1月から2026年7月までの期間において、中央区に所在する中古タワーマンション9,063件の取引事例を分析した結果、市場全体で売り出し物件が増加していることが確認されました。しかし、この在庫増加がすべてのカテゴリーで同じ影響を与えているわけではありません。
実需タワーマンションは在庫増加と回転率低下が同時進行
実需のタワーマンション市場では、2024年頃から在庫数が継続的に増加しています。これと同時に、在庫回転率が大きく低下している点が注目されます。在庫回転率は、一定期間に存在する在庫に対して販売された物件の割合を示す指標であり、この低下は供給が増加しているにもかかわらず、需要の吸収が追いついていない状況を示唆しています。

このような市場環境では、買い手は複数の物件を比較検討しやすくなり、売却を急ぐ売主は価格を引き下げる必要が生じます。この動きが、現在見られる価格調整につながっていると分析されます。
投資用タワーマンションも在庫増加、しかし回転率は安定
一方、投資用(オーナーチェンジ)のタワーマンションも、2024年頃から在庫が増加しています。しかし、その後の推移を見ると実需物件とは異なる動きが見られます。投資用タワーマンションの在庫は2025年5月頃をピークにおおむね横ばいで推移しており、実需物件のように増え続けているわけではありません。
さらに重要なのは在庫回転率です。投資用タワーマンションの在庫回転率は、実需物件ほど大きく低下しておらず、比較的安定した動きを示しています。これは、投資用物件においても供給過多の状況はあるものの、市場に出てきた物件が一定のペースで売買されていることを意味します。

実需と投資用で違いが生じる背景
同じタワーマンションでありながら、実需と投資用で市場の動きに違いが生まれる主な理由の一つは、価格の決定方法にあります。
実需マンションの場合、購入者が実際に居住することを前提としているため、駅からの距離、眺望、階数、間取り、室内状態、周辺環境など多岐にわたる要素が価格に影響を与えます。一方、オーナーチェンジ物件は、すでに入居者がおり賃料収入が発生しているため、投資家はその収益性を最も重要な判断材料とします。収益還元法などを用いて、将来得られる収益を基準に価格が判断される傾向にあります。
一般的に、実需で売買される物件と比較して、オーナーチェンジ物件の価格は低くなる傾向があります。また、同じマンション・同じような広さの住戸であっても、設定されている賃料が異なれば、投資家から見た収益性も変動するため、価格も変わります。この構造により、投資用市場では「割安物件」を見つける余地が生まれる可能性があります。
今後の見通しとマンション選びの視点
今回のデータからは、単に「在庫が増えている」という現象だけでは市場の状態を判断できないことが示唆されます。中央区湾岸のタワーマンション市場では、実需と投資用の双方で在庫が増加していますが、その背景にある需要構造が異なっています。
実需市場では、価格上昇が購入層を限定し、売主側の高い価格期待との間にギャップが生じている可能性があります。一方、投資用市場では収益性という明確な基準があるため、価格と収益のバランスが取れた物件は、現在の市場環境でも投資家から選ばれる余地があると考えられます。
今後、中央区湾岸のタワーマンション市場を見る上では、「価格が上がった」「在庫が増えた」「値下げが増えた」といった表面的な数字だけでなく、「誰が売り、誰が買い、どのような価格形成によって売買されているのか」という点が重要になります。これからのマンション選びにおいては、「その物件は実需なのか投資用なのか」「現在の価格は何によって決まっているのか」「在庫に対してどれだけ売れているのか」といった多角的な視点が、これまで以上に重要になるでしょう。
筆者プロフィール

福嶋 真司(ふくしましんじ)
マンションリサーチ株式会社 データ事業開発室 不動産データ分析責任者
福嶋総研 代表研究員
早稲田大学理工学部卒。大手不動産会社にてマーケティング調査を担当後、建築設計事務所にて法務・労務を担当。現在はマンションリサーチ株式会社にて不動産市場調査・評価指標の研究・開発等を行う一方で、顧客企業の不動産事業における意思決定等のサポートを行う。大手メディア・学術機関等にもデータ及び分析結果を提供しています。