日本の空飛ぶクルマ市場、2035年には4億6,563万米ドルへ拡大予測 – 商用運航に向けたロードマップ改定が市場転換点に

市場の転換点と投資テーマの変化

市場動向において特に重要なのは、技術そのものよりも規制面の進展です。2026年3月27日には経済産業省と国土交通省が「空の移動革命」に関するロードマップを改定し、2027年~2028年に一部地域で商用運航を開始する方針を明確化しました。さらに、2030年代前半にはAAM(Advanced Air Mobility)の新しい交通管理システムや遠隔操縦による旅客輸送、2030年代後半には部分的な自動・自律運航を目指す段階的な計画が示されています。

このロードマップ改定は市場にとって極めて大きな転換点であり、それまでの「将来的に空飛ぶクルマを実現する」という方向性から、具体的な商用開始時期が示されたことで、民間企業が投資計画を立てやすくなりました。

これにより、日本の空飛ぶクルマ市場における投資テーマは、航空機本体だけでなく、機体認証、バーティポート建設、運航ルートの採算性、空港アクセス、充電設備、旅客処理、航空交通管理、保険、運航ソフトウェア、社会受容性など、多岐にわたる分野に広がっています。市場は「eVTOL機体メーカーの競争」から、「航空機・インフラ・不動産・エネルギー・ソフトウェア・運航サービスを含む総合的なAAMエコシステムの構築競争」へと発展しています。

2025年時点の市場構成

2025年時点の市場構成を見ると、操縦士が搭乗するeVTOL・空飛ぶクルマが市場の76.8%を占め、運航方式では有人操縦が78.5%と圧倒的に大きな割合を占めています。座席数では2~3人乗りが51.2%で最大であり、推進方式ではバッテリー電動が91.4%と市場をほぼ支配しています。

用途別では、旅客エアタクシー・都市交通が44.6%で最大、観光・空港アクセスが24.8%で2番目に大きい市場を形成しています。地域別では関東・東京が39%で最大の商機を持ち、関西・大阪が28%で続いています。国内OEMではSkyDriveが中心的な存在であり、海外勢ではJoby AviationのS4、Archer AviationのMidnightが主要プラットフォームとして位置づけられています。

主要な動向とプレイヤー

東京の戦略

東京都では、単一の機体に絞るのではなく、SkyDriveのSD-05、JobyのS4、ArcherのMidnightといった特性の異なる3つの機体を対象とした実装プロジェクトが進行中です。これは、日本市場が一つの標準的な機体に収斂するのではなく、座席数、航続距離、速度、運航コスト、インフラ条件に応じて複数の機体が棲み分ける可能性が高いことを示しています。

JALはArcher Midnightを使用するコンソーシアムを主導し、ANAとJobyは日本国内で100機超を展開する構想を議論しています。SkyDriveはより小型で国内生産に軸足を置く戦略を採用しており、短距離都市交通、観光、地方路線に適する可能性があります。

2026年2月24日~28日には東京ビッグサイトでSkyDriveの実証飛行が行われ、単なる機体飛行から一歩進んで「旅客体験」の検証も実施されました。ターミナル設備や顔認証を利用した模擬搭乗プロセスも検証されており、旅客処理の高速化がビジネスモデル上重要であると認識されています。

大阪の先行事例

関西・大阪は、初期のバーティポート・エコシステムという点で最も先行しています。大阪・関西万博2025を通じて実際の運航・インフラ経験が蓄積され、OSAKAKO Vertiportなどの拠点も整備されました。ORIXは将来的に関西・瀬戸内地域で約20カ所のeVTOLポートを構築する構想を検討しており、関西3空港をゲートウェイとして利用する可能性も示されています。このため関西は、観光、富裕層向け空港送迎、リゾート交通、地域間アクセスなどで早期の収益化が期待される地域です。

バーティポートの重要性

空飛ぶクルマでは航空機本体に注目が集まりやすいですが、実際の商用運航では離着陸拠点が不足しやすく、都市部では適切な立地を確保できる不動産が希少資産になる可能性があります。経済産業省はバーティポートを航空法上のヘリポートの一種として扱っており、eVTOL特有の特性に対応した環境評価ガイドラインも整備しています。都市型バーティポートには、適切な空域、充電設備、旅客導線、騒音対策、安全区域、既存交通への接続などが必要であり、これらの条件を満たす土地を保有する不動産会社がAAM市場で重要な役割を持つ可能性が高いです。

野村不動産は航空会社と都市型バーティポート開発を検討しており、東京都の実装プロジェクトにも参加しています。2026年3月の東京湾プロジェクトでは、航空・海上・陸上交通を統合した浮体式eVTOLポートの実証も行われました。

自動・自律運航への移行

長期的には、1機につき1人の操縦士を搭乗させるビジネスモデルからの移行も重要です。2026年の国家ロードマップでは、2030年代前半に遠隔操縦による旅客輸送を導入し、2030年代後半には部分的な自動・自律運航へ移行する方向が示されています。これはパイロット不足や人件費が小型航空機の大量運航を制約する可能性があるためです。ただし、安全規制、通信、サイバーセキュリティ、冗長性、旅客の心理的受容などの課題が大きいことから、自律化は初期商用化の前提ではなく、2030年代の収益性改善要因として捉えられています。

空港アクセスの可能性

空港アクセスは、日本で最も有望な初期旅客用途の一つとされています。空港利用者は出発地・目的地が予測しやすく、時間短縮への支払い意欲が高いためです。また、空港にはすでに航空運航ノウハウ、安全設備、交通接続があります。ANAとJoby、JALとSoracleの提携からも、既存航空会社はAAMを独立した交通手段ではなく、国内線・国際線に接続する「航空旅程の延長」として捉えていることが示唆されます。

離島・山間部、災害対応、医療物流

日本の地理的条件から、離島、山間部、災害対応、医療物流にも大きな可能性があります。これらの用途では都市部のエアタクシーほど多くの利用者を必要とせず、道路、橋、フェリー、鉄道の迂回を大幅に短縮できること自体が価値となります。SkyDrive、Suzuki、Air Indiaが2026年7月にインドで時間依存性の高い医療物流への空飛ぶクルマ活用を検討する合意を締結したことは、日本のAAM産業が医療用途を海外に展開し始めている例とされています。

AAM交通管理ソフトウェア

機体数が増加すると、新たなソフトウェア市場としてAAM交通管理が重要になります。2030年代前半には、専用コリドーや高密度運航管理システムの導入が想定されており、航空機追跡、ルート管理、気象情報、バーティポート空き状況、機体間隔管理、既存航空交通との連携などを扱うデジタルシステムが必要になります。JALはAMOPと呼ばれる次世代エアモビリティ統合運航プラットフォームを長期戦略の一部として位置づけています。

市場セグメントの詳細(2025年時点)

  • タイプ別: 操縦士搭乗型eVTOL・空飛ぶクルマが76.8%(1,486万米ドル)、旅客ドローンや高度自律型コンセプトが23.2%。

  • 運航方式別: 有人操縦が78.5%(1,519万米ドル)、遠隔・半自律型が15%(290万米ドル)、完全自律型が6.5%(126万米ドル)。

  • 座席数別: 2~3人乗りが51.2%(991万米ドル)で最大。4~5人乗りが38.6%(747万米ドル)。6人以上の大型機は10.2%。

  • 推進方式別: バッテリー電動が91.4%(1,768万米ドル)と圧倒的。ハイブリッド電動は8.6%。

  • 用途別: 旅客エアタクシー・都市交通が44.6%(863万米ドル)で最大。観光・空港アクセスが24.8%(480万米ドル)。緊急・災害対応が13.6%(263万米ドル)。医療・物流が10.2%(197万米ドル)。その他用途が6.8%。

  • 地域別: 関東が39%(754万米ドル)で最大。関西が28%(542万米ドル)。中部が14%(271万米ドル)。

競争構造と主要企業の動向

日本の空飛ぶクルマ市場の競争構造は、国内OEM中心から複数の航空機メーカー・運航会社・インフラ企業による複合型市場へと変化しています。

SkyDriveは、国内eVTOLメーカーとしてSuzukiとの生産提携が大きな特徴です。両社は2024年3月にSuzukiの磐田工場で生産活動を開始しました。SkyDriveは海外でも受注を獲得しており、2026年1月にはAeroGulf Servicesと20機に関する合意を締結し、同年2月には台湾向けに10機の合意も行っています。

ANAとJobyは、より大型のエアタクシーモデルを構築しています。Joby S4は操縦士を含め5人乗りで、東京や空港アクセスなど比較的長い距離に適しています。ToyotaはJobyに投資しており、工場設計や生産工程でも協力しています。

JAL、住友商事、Soracle、Archerの連合は、運航会社主導型のモデルを構築しています。JALと住友商事はSoracleを設立し、ArcherのMidnight最大100機の発注権を確保しています。JALはAMOPというデジタル運航プラットフォームも保有しており、運航ノウハウやフリート管理まで含めた事業モデルを構築しています。

バーティポート競争も今後さらに重要になると考えられます。野村不動産、ORIX、大阪メトロ、JR東日本なども、着陸拠点や既存交通との接続という観点から重要性を増しています。

2026年の主な動き

2026年には以下のような動きがありました。

  • 1月15日:SkyDriveがAeroGulf Servicesと20機の機体納入計画で合意。

  • 1月23日:SkyDriveがSASMOSとSD-05の電気配線システムの設計・製造に関する契約を締結。

  • 2月24日~28日:東京ビッグサイトでSkyDriveが初の東京実証飛行と旅客ターミナル運用の検証を実施。

  • 3月:東京都がSkyDrive、Joby、Archerの機体を用いたシミュレーター、展示、騒音体験などの社会受容性プログラムを実施。

  • 3月27日:国が2027年~2028年の商用化時期を正式に提示。

高付加価値分野と商用化リスク

2035年までの高付加価値分野としては、空港-都市間輸送、バーティポート開発、観光移動、救急・医療輸送、交通管理ソフトウェア、充電インフラ、整備・航空サービス、保険が挙げられます。特に都市部の好立地なバーティポートは供給が限られるため、空港、主要駅、ビジネス街、観光地に近い土地を確保できる企業が強い立場を得る可能性があります。

一方で、商用化リスクも存在します。最大の短期リスクは認証遅延であり、政府が商用化目標を設定しても、耐空証明や運航許可を得られなければ旅客サービスは開始できません。また、バーティポートは単なる空き地では不十分で、地方自治体との調整、環境評価、充電、気象監視、旅客アクセス、周辺空域など複数条件を満たす必要があります。運航採算性も未検証であり、機体稼働率、バッテリー交換費用、整備費、パイロット人件費、搭乗率などが実際の商用フリートでどの程度になるかは不透明です。

さらに、日本では風、雨、台風、低視程などの気象条件が運航率を下げる可能性があります。初期世代の機体では悪天候時の運航制約が大きく、年間の稼働時間が想定を下回れば採算性に直接影響します。都市部で高頻度に運航するには、騒音、プライバシー、安全性への懸念に対する住民理解も重要な要素となります。

機体選定とバーティポート設計の考慮事項

機体調達や投資判断では、航続距離の長さだけでなく、運航するルートに適した機体を選ぶことが重要です。3人乗りの小型機は観光や短距離路線で有利になる可能性があり、4人以上の旅客を乗せられる機体は空港や都市間路線で1人当たりコストを抑えやすいでしょう。また、認証取得が遅い機体を選ぶと、バーティポートや運航会社の事業全体が数年単位で遅れる可能性があるため、技術性能だけでなく認証の成熟度を重視する必要があります。

バーティポート設計も機体選定と密接に関係します。機体寸法、ローター配置、充電方式、旅客数、地上ハンドリングなどが違えば、必要なインフラも変わります。日本には世界有数の高密度鉄道網があるため、空飛ぶクルマは鉄道と正面から競争するよりも、鉄道が効率的に対応できない空港アクセス、離島、観光地、山間部などの「交通ギャップ」を埋める形で普及する可能性が高いと考えられます。

結論

日本の空飛ぶクルマ市場は2026年に大きな転換点を迎え、公開実証を行う段階から、実際に有料旅客サービスを成立させる段階へ移行しています。2027年~2028年には一部地域で商用運航を開始し、2030年代前半には遠隔操縦と新しいAAM交通管理、2030年代後半には部分的な自動・自律運航へ進むロードマップが示されています。

東京と大阪では発展モデルが異なり、東京は最大の都市・空港アクセス需要を持つ一方、空域・人口密度・インフラの複雑性が高いです。大阪は万博を通じてバーティポート運用の経験を先行して蓄積しており、観光や地域間アクセスから市場を形成しやすいでしょう。SkyDriveのような小型国内機は短距離用途、JobyやArcherの4人乗り機は長距離都市・空港路線に適するため、日本市場では単一の「空飛ぶクルマ」が全国に普及するのではなく、地域、距離、用途、採算性ごとに複数の機体・ルート・運航モデルが組み合わされる可能性が高いと考えられます。

2035年に最も強い競争力を持つ企業は、単に優れた航空機を保有する企業ではなく、認証準備、着陸インフラ、運航システム、旅客アクセス、既存交通との接続まで複数の要素を押さえる企業になると考えられます。日本の空飛ぶクルマ市場は、機体製造市場というよりも、航空・不動産・エネルギー・IT・鉄道・保険・物流が融合する新しいモビリティ産業へ発展しつつあり、2025年の1,935万米ドルから2035年の4億6,563万米ドルへの拡大予測は、こうした周辺エコシステム全体の成長を反映したものと位置づけられます。

本調査レポートに関する詳細情報は、株式会社マーケットリサーチセンターのウェブサイトでご確認いただけます。

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