著者|Ray Yang, Founder & CEO, WasabiCard
ステーブルコインが本当に変えたものとは?
この2年間、ステーブルコインが企業決済やクロスボーダー決済へと徐々に浸透するにつれ、その影響をめぐる議論も活発になっています。
ステーブルコインが世界の決済システムそのものを再構築すると考える人もいれば、最終的には Visa や Mastercard といった従来のカードネットワークを置き換えると見る人もいます。
WasabiCard を創業する以前、私は長年カードネットワーク業界に携わり、Visa の「4者間モデル(Four-Party Model)」に関連するプロダクト設計に関わってきました。
取引のオーソリゼーション(承認)からクリアリング、セトルメント(決済)、グローバルな加盟店ネットワーク、そしてリスク管理まで。私は一つの決済を、ユーザーが支払いを完了する瞬間だけではなく、決済システム全体の構造から捉えることに慣れています。
だからこそ、ステーブルコインについて考え始めたとき、私が注目していたのは「Visa や Mastercard を置き換えるのか」という問いではありませんでした。
より本質的な問いは、
ステーブルコインは、決済システムのどのレイヤーを変えているのか。
ということです。
多くの議論では、「ユーザーがどのように支払うか」に注目が集まりがちです。一方で、その取引が完了した後、資金が世界の金融システムの中でどのように最終決済されているのかについては、十分に語られていません。
私がステーブルコインに最も大きな可能性を感じたのも、まさにこのレイヤーです。
私が考えるステーブルコインの最大の価値は、新しい決済手段を生み出したことではありません。
むしろ、既存の決済システムとは異なる、新たなグローバル資金決済の経路を提供したことにあります。
ステーブルコインは4者間モデルを覆すものではなく、Visa や Mastercard に取って代わるものでもありません。
本当に変えつつあるのは、Payment(決済情報の流れ)ではなく、Settlement(資金決済の流れ)です。
つまり、消費者が「どのように支払うか」ではなく、支払い後の資金が「どのように世界中を移動し、最終決済されるか」を変えているのです。
Visa と Mastercard がグローバルな決済ネットワークを形づくってきたとすれば、ステーブルコインは今、グローバルな資金ネットワークそのものの進化を促している。
本稿では、その変化について私なりの視点から考察していきたいと思います。
4者間モデルは崩れていない。変化しているのは、その下を流れる「資金レール」
ステーブルコインが何を変えつつあるのかを理解するには、まず世界のカード決済を支える最も重要なインフラの一つである「4者間モデル」を理解する必要があります。
このモデルでは、カード会員、加盟店、カード発行会社(Issuer)、加盟店契約会社・アクワイアラー(Acquirer)がそれぞれの役割を担います。
そして Visa や Mastercard などのカードネットワークは、これらの関係者を接続し、ルールを定め、取引の承認やクリアリングを支えています。
過去数十年にわたり、この仕組みは世界のカード決済の発展を支え、現在では最も成熟し、安定した決済インフラの一つとなっています。
そのため、ステーブルコインの登場によって4者間モデルそのものが変わり、最終的には Visa や Mastercard が置き換えられるという見方もあります。
しかし、私はこれはよくある誤解だと考えています。
消費者から見れば、決済体験そのものはほとんど変わりません。
ユーザーは引き続きカードを利用し、Tap to Pay で支払ったり、オンラインでカード番号を入力したりします。
加盟店も引き続き Visa や Mastercard などのグローバル決済ネットワークを通じて代金を受け取り、最終的には自国通貨で資金を受け取ります。
本当に変化しているのは、取引が完了した後、その資金がどのように最終決済されるのかという部分です。
4者間モデルが解決してきたのは、取引情報をどのように効率よく流通させるかという課題です。
一方、ステーブルコインは、資金そのものをどのように効率よく移動させるかを再定義し始めています。
だからこそ私は、ステーブルコインは決済の入口を変えるものでも、4者間モデルを覆すものでもないと考えています。
むしろ既存の決済システムの上に、よりリアルタイムで、オープンかつプログラマブルな新しい「決済レール」を追加する存在です。
4者間モデルの代替ではなく、むしろ既存のモデルを次の段階へ進化させる重要なインフラなのです。

ステーブルコインが再構築する、決済システムの3つの重要な機能
4者間モデルがグローバルな決済ネットワークを定義してきたとすれば、ステーブルコインがもたらす変化は、単に決済スピードを向上させることだけではありません。
私が考えるステーブルコインの本質的なインパクトは、決済インフラにおける次の3つの能力を再構築している点にあります。
セトルメント、流動性管理、そしてコンプライアンスに基づく資金分配です。
1. セトルメント
従来のクロスボーダー決済では、最終的な資金決済を銀行口座ネットワークに依存しています。
そのため、資金は複数の金融機関を経由することが多く、営業日、タイムゾーン、各国のローカル決済ネットワークなどの影響を受けます。
ステーブルコインは、こうした資金決済に対して、よりリアルタイムかつ継続的に利用できる新しい経路を提供します。
これにより、グローバルな資金移動をより効率的に行える可能性が生まれています。
2. 流動性管理
企業のグローバル展開が進むにつれ、異なる国や地域の間で資金を柔軟に移動させる必要性も高まっています。
ステーブルコインを活用すれば、企業はグローバルな流動性を一つの資金プールとして管理し、事業上のニーズに応じて各地域で支払い、両替、決済を行うことができます。
これにより、資金効率そのものを大きく改善できる可能性があります。
3. コンプライアンスに基づく資金分配
ステーブルコインそのものには、グローバルな決済ネットワークも、各国の規制要件を満たす仕組みも備わっていません。
ステーブルコインを企業決済の実用的なインフラへと変えるためには、オンチェーン資金、グローバル決済ネットワーク、そして各地域のコンプライアンス体制を接続するインフラが不可欠です。
私は、今後のステーブルコイン決済における競争は、「誰がより多くのオンチェーン資産を持っているか」では決まらないと考えています。
重要なのは、ステーブルコイン資産を、厳格なコンプライアンス体制のもとで、世界の主要な商業・決済ネットワークへどれだけ効率的に分配できるかです。
Visa、Mastercard、WasabiCard。それぞれが担う役割
ステーブルコインが主流の決済システムへと入り始める中で、それぞれのインフラが担う役割も徐々に明確になってきました。
従来のカードネットワークと、新世代の FinTech インフラは異なるポジションから、この変化を共に推進しています。
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プレイヤー |
中核となる戦略的位置付け |
ステーブルコインの役割 |
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Visa |
フロントエンドの決済体験を維持しながら、バックエンドのセトルメントをアップグレード |
ステーブルコインをセトルメントレイヤーのツールとして活用 |
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Mastercard |
ID、資金フロー、企業決済、インフラを複数のレイヤーで統合 |
ステーブルコインをより包括的な決済エコシステムへ組み込む |
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WasabiCard |
カードネットワークのルールと各地域の規制・コンプライアンスをプロダクトとして接続 |
ステーブルコインを「発行できる・使える・決済できる」カード決済能力へ変換 |

これからのグローバル FinTech における競争は、ある一つの機能が他を完全に置き換えるものではありません。
むしろ、複数のインフラがそれぞれの強みを発揮し、相互に連携することで全体の効率を高めていく競争になると考えています。
Visa はセトルメントの高度化を進め、Mastercard は決済エコシステム全体の統合を推進する。
そして WasabiCard のような次世代のコンプライアンス・ディストリビューションレイヤーは、既存の決済ネットワークとオンチェーン資産の間に高度にプロダクト化された接続を構築し、各市場へのローカライズを実現していきます。
将来的に本当の競争力を持つのは、単一のインフラそのものではありません。
異なるインフラ同士を、どれだけ効率よく連携させられるか。
その能力こそが重要になると考えています。
「接続レイヤー」にフォーカスする理由:なぜステーブルコインのコンプライアンス・ディストリビューションが WasabiCard の機会なのか
企業によるステーブルコイン決済の導入が進むほど、私は一つのことを強く確信するようになりました。
本当の課題は、オンチェーン上で決済できるかどうかではありません。
ステーブルコインを、どのように安全かつコンプライアンスに則った形で、世界の商業システムへ接続するか。
そこに本当の難しさがあります。
ステーブルコインは資金移動の効率を高めます。
しかし、それだけではグローバルな決済ネットワークにつながることはできません。また、各国・各地域の異なる規制要件を自動的に満たせるわけでもありません。
オンチェーン資金、決済ネットワーク、そして各地域のコンプライアンスを接続できるプレイヤーこそが、ステーブルコインのエンタープライズ利用を本格的に推進できると考えています。
これこそが、コンプライアンス・ディストリビューションレイヤーの価値であり、WasabiCard が長期的に取り組んでいる領域です。
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資金分配能力: ステーブルコイン資金とグローバル決済ネットワークを接続し、企業決済およびグローバルな資金分配を実現。
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コンプライアンス能力: KYB、KYC、AML、KYT などの機能を統合し、グローバルな規制要件に対応。
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ローカライゼーション能力: 複数国でのカード発行能力とローカル BIN リソースを組み合わせ、各市場のニーズに対応。
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インフラ能力: API、法人カード、資金管理機能を通じて、企業がグローバル決済機能を迅速に構築できる環境を提供。
次のフェーズ:注目すべき4つのイノベーション領域
ステーブルコインが本当に変えつつあるのが決済システムそのものであるなら、次の競争の中心となるのは、間違いなく決済インフラです。
今後数年間、グローバル展開を進める企業や FinTech 事業者にとって、特に注目すべきインフラの進化は次の4つだと考えています。
そしてこれらは、WasabiCard が現在重点的に取り組んでいる領域でもあります。
1. 複数国でのカード発行とグローバル資金分配ネットワーク
企業活動のグローバル化が進むにつれ、競争力を決めるのは、単一市場におけるカード発行能力だけではなくなります。
今後重要になるのは、複数市場を横断して資金を分配できる能力です。
ローカルカード発行、地域ごとのコンプライアンス、グローバル決済ネットワークを接続できるプラットフォームは、より大きなインフラ価値を持つことになるでしょう。
2. グローバル流動性管理
現在、ステーブルコインを活用して世界中の資金を統合的に管理し、各国や各事業のニーズに応じて、ローカル決済、従業員支出、サプライヤーへの支払いなどを行う企業が増えています。
ステーブルコインは単に資金移動のスピードを変えるだけではありません。
企業がグローバルな流動性そのものを管理する方法を変え始めています。
3. プログラマブルな決済ルール
企業決済は今後、さらにインテリジェントになっていきます。
支払い権限、利用限度額、加盟店カテゴリー、リスクポリシーなどを、事業や利用シーンに応じて動的に設定できるようになります。
決済管理は、固定されたルールから、プログラム可能な管理モデルへと進化していくでしょう。
4. 自動化された決済シーン
AI Agent や自動化されたビジネスプロセスが普及するにつれ、小口・高頻度・クロスボーダーの決済が、システムによって自動的に実行されるケースは今後さらに増えていくでしょう。
この構造では、
ステーブルコインがリアルタイムなセトルメントを提供し、
Visa や Mastercard がグローバルな加盟店受入ネットワークを提供し、
決済インフラが権限管理、リスク管理、コンプライアンス執行を担う。
これらが連携することで、次世代の企業決済インフラが構築されていくと考えています。
最後に
改めて、この記事の冒頭で提示した問いに戻ります。
ステーブルコインは、決済システムのどのレイヤーを変えるのか。
私の答えは一貫しています。
ステーブルコインが本当に変えているのは、決済の入口ではありません。
決済システムの背後にある、資金の流れそのものです。
Visa と Mastercard は、過去数十年をかけて成熟したグローバル決済ネットワークを築いてきました。
私は、この仕組みがステーブルコインによって消えるとは考えていません。
むしろ既存の決済ネットワークは、ステーブルコインがもたらすリアルタイム決済のメリットを取り込みながら進化していくでしょう。
これまでバックエンドに隠れていたセトルメント、流動性管理、コンプライアンスといった能力が徐々に高度化し、次世代の決済インフラを構成する重要な要素になっていくと考えています。
WasabiCard が目指しているのも、単なる「ステーブルコインカード」の提供ではありません。
私たちが構築したいのは、Visa や Mastercard の既存ルールとシームレスに連携できる、グローバルな決済インフラです。
複数国におけるコンプライアンスに準拠したカード発行能力、ステーブルコインを活用した資金分配能力、そしてオンチェーン資金と現実の商業世界を接続する能力。
これらこそが、私たちが長期的に取り組んでいる領域です。
WasabiCard を創業した初日から、私たちはステーブルコインを Visa や Mastercard の代替手段として位置づけたことはありません。
むしろ、ステーブルコインという新しいセトルメント能力を、既存のグローバル決済ネットワークにより自然な形で組み込むことを目指しています。
フロントエンドでは、企業やユーザーがこれまでと変わらないカード決済体験を利用できる。
その一方でバックエンドでは、より効率的で、よりオープンでありながら、同時に高度なコンプライアンス設計を必要とする新しい資金レールが稼働する。
私たちは、その接続を実現するインフラを構築していきます。
WasabiCardについて
WasabiCard は、ステーブルコインを活用した金融インフラを通じて、企業、FinTech 企業、インターネットネイティブなビジネスに対し、カード発行、グローバル送金、クロスボーダー決済機能を提供するグローバル決済インフラプラットフォームです。
グローバルカード発行、複数通貨での決済、ステーブルコインによる入金、エンベデッド・ペイメント機能などをサポートし、現代のグローバルビジネスに求められる決済環境に対応しています。
WasabiCard は、デジタル広告、SaaS サブスクリプション、グローバル給与・報酬支払い、資金管理、デジタル金融サービスなど、幅広い決済シーンで活用されています。
WasabiCard 公式 X および LinkedIn では、最新のプロダクト情報、パートナーシップ、そしてステーブルコイン決済の未来に関する業界インサイトを発信しています。ぜひフォローしてください。
免責事項
本記事は、一般的な情報提供および教育を目的としたものです。
本記事の内容は、WasabiCard が提供する法律、税務、金融、その他の専門的な助言を構成するものではなく、またそれらの専門的な助言に代わるものでもありません。
WasabiCard は、本記事に記載された情報の正確性、完全性、十分性、または最新性について、明示または黙示を問わず、いかなる表明、保証、または確約も行いません。
内容の更新や修正に関するご提案については、support@wasabicard.com までお問い合わせください。
本記事は、WSCD SOLUTION PTE. LTDが2026年10月28日にPR TIMESで発表したプレスリリースを原文のまま掲載しています。
元のリリース:4者間モデルにおいて、ステーブルコインは実際にどのレイヤーを変えるのか?