国立大学法人岡山大学(本部:岡山市北区、学長:那須保友)が、文部科学省の「産業・科学革新人材事業(INSIGHT)」に採択された。実施主体は国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)。同大学は2026年10月16日に開いた「10月定例記者発表(学長発表)」で採択を公表した。会見には、参画企業である株式会社フジワラテクノアートの藤原加奈代表取締役副社長も同席した。
INSIGHTは、大学と企業の垣根を超えた人材の流動化と知の集積を促す事業である。先端研究と次世代人材育成の好循環を生み出し、日本のイノベーション創出と産業競争力の強化につなげることを目指している。研究開発や人材育成に加え、産学共創への貢献を適切に評価する人事・給与制度の改革や、産業界から大学への民間投資の拡大も一体的に進め、持続可能な産学共創の仕組みを構築する。2026年度の公募には全国58大学が応募し、書面審査と面接審査を経て、岡山大学を含む16大学が採択された。採択率は約28%だった。

「アカデミアライン」と「インダストリアルライン」を大学の両輪に
岡山大学の採択プロジェクトの名称は「産と学の人材循環を生み出すインダストリアルラインの構築~アカデミアラインとインダストリアルラインの『ツインピークス』で実現する知・人材・資金が循環する大学経営~」である。組織と人事の両面から「インダストリアルライン」を構築し、大学と企業の間で人材が双方向に行き来する流れをつくる。事業には株式会社フジワラテクノアート、ナガセヴィータ株式会社、DAIKEN株式会社、株式会社三石ハイセラム、萩原工業株式会社、津山工業高等専門学校などが参画する。
人事面:産学共創への貢献を処遇とキャリアに反映
人事面では、産学共創への貢献を適切に評価する新たな人事・給与・評価制度を整備する。学術研究の深化と研究力の追求を担う「アカデミアライン」に加えて、企業との共同研究、技術の社会実装、人材交流などへの貢献を評価し、処遇やキャリア形成に反映する「インダストリアルライン」を設ける。この2つを大学の両輪とする「ツインピークス」の実現を目指す。また、クロスアポイントメント制度などを活用し、企業の研究者・技術者が大学で活躍する「産から学」の流れとともに、大学の研究者や博士人材等が企業の研究開発現場で活躍する「学から産」の流れも強化していく。
組織面:「組織」対「組織」の共創体制へ
組織面の中核となるのは、2026年4月に創設した「産学イノベーション共創拠点」である。この拠点を軸に、大学と企業が組織の垣根を超えて研究開発・人材育成・社会実装に取り組む「共創コア」を形成する。従来のような研究者個人と企業との共同研究にとどまらず、「組織」対「組織」による持続的な産学共創体制を築く。

第一弾は「微生物インダストリー」、醸造技術と大学の研究を融合
共創コアの第一弾となる「微生物インダストリー共創プレミアムコア」は、2025年5月にフジワラテクノアートから岡山大学に提案された構想がきっかけとなった。以来、両者が連携して具体化を進めてきた。同社が醸造分野で培ってきた固体培養技術やバイオプロセスの機械化・産業化技術に、岡山大学の先端的な研究成果と、参画する多様な分野の研究者・技術者等の知見を融合させ、微生物の潜在能力を活用した新たな産業の創出を目指す。これまでの寄付講座による連携を発展させ、研究者、企業技術者、URA、技術職員、事務職員などが専門分野や組織の垣根を越えて協働する文理融合の体制を構築する。
このほか、次のような共創コアなどを通じて、多様な分野で産学共創を展開する。
- ナガセヴィータ株式会社との「糖質・植物生化学共創リーディングコア」
- DAIKEN株式会社・株式会社三石ハイセラムとの「地球惑星サイエンス共創リーディングコア」
- 萩原工業株式会社・DAIKEN株式会社との「住環境ウェルビーイング共創リーディングコア」
藤原副社長は、同社が「醸造を原点に、世界で『微生物インダストリー』を共創する」という「開発ビジョン2050」を掲げていることを紹介した。そのうえで、ビジョンの実現には一つの企業や一つの研究室の枠を越え、多様な分野の知識や技術を結集することが不可欠だと述べた。さらに、微生物インダストリー共創プレミアムコアを産学共創による新たな産業創出の先導的なモデルへと育て、岡山から世界へ新たな産業を生み出す挑戦を進めるとコメントしている。

大学の「OS」を更新し、自立的なエコシステムへ
岡山大学は今回の事業を、同大学が推進する「地域中核・特色ある研究大学強化促進事業(J-PEAKS)」「次世代研究者挑戦的研究プログラム(SPRING)」「先端研究基盤刷新事業(EPOCH)」などとも連携させる。これにより、研究力強化、研究基盤整備、人材育成、産学共創を一体的に推進する。研究・教育・人事制度・資金の流れをまとめて変革することで、大学の基本的な運営の仕組み、すなわちオペレーティングシステム(OS)の更新を実現するとしている。事業期間は2026年10月から2032年3月まで。事業終了後も民間投資によって自立的に発展する産学共創エコシステムの構築を目指す。産学の人材循環、研究開発、人材育成、民間投資が連動する持続可能な大学経営モデルを構築し、その成果を全国へ展開していく方針だ。
那須学長は、今回の採択を、同大学が進める大学改革をさらに加速させる大きな契機と位置づけた。目指すのは、単に共同研究を増やすことでも、岡山大学だけの成功でもないという。大学と企業の垣根を越えて人材が循環し、研究成果が新たな産業につながり、民間投資が次の研究や人材育成を支える。そうした仕組みを大学経営の中に根付かせることが狙いだと説明した。そのためには大学自身が変わらなければならないとし、産学共創への貢献を正当に評価する人事制度の構築と、大学と企業が真のパートナーとして新たな価値を生み出す体制づくりを進める考えを示した。そのうえで、大学のOSそのものを更新して岡山から新たな大学経営モデルを生み出し、その成果を全国の大学や地域へ展開することで、日本の研究力と産業競争力の強化に貢献すると語った。
出典:国立大学法人岡山大学