2026年10月23日(金)、北九州市小倉駅近くの「地域未来共創ラボ 北九州」で、北九州宇宙ビジネスネットワーク勉強会・相談会が開かれました。主催は北九州市、運営は有限責任監査法人トーマツ 西日本アドバイザリーです。宇宙産業への参入を果たした地域の中小企業と、月面輸送サービスの事業化を進める宇宙企業が登壇しました。講演とクロストークを通じて、宇宙産業への入り口は、地域企業が日々の仕事で積み上げてきた技術の延長線上にあることが示されました。冒頭では、北九州市産業経済局未来産業推進部未来産業推進課長の岩本真幸氏が取り組みの背景を説明しました。北九州市は、ものづくり産業の基盤と、大学や研究機関の研究力を結び付け、宇宙産業を将来の産業を育てるテーマの一つに位置付けています。宇宙ビジネスに関心を持つ企業のネットワークは、2026年10月時点で参加企業が約120社です。

産業機械メーカーが人工衛星開発に関わるまで
最初の講演には、オガワ機工株式会社の伊藤慎二副社長が登壇しました。同社は福岡県久留米市の企業で、1976年創業、従業員28人です。食品、物流、重工業などの現場向けに、搬送装置、特殊機械、治具などを設計・製作してきました。同社の仕事は、完成した図面どおりにつくることではありません。要件や仕様が固まっていない顧客の相談をヒアリングで掘り下げ、設計条件や仕様に落とし込んで装置にします。宇宙との関わりは2008年頃に始まりました。九州大学の宇宙に関係するプロジェクトへの参加を持ち掛けられ、「面白そうだからやってみよう」と考えたことがきっかけです。当時、宇宙向けの特別な設備や経験はありませんでした。受注や売上につながらないまま、大学の研究室や関係者と人工衛星について学ぶ期間が数年続きました。その継続が人とのつながりを生み、2017年頃から人工衛星開発プロジェクトに本格的に参画するようになりました。
同社が実感したのは、人工衛星と地上の産業機械の開発には共通する部分が多いということです。宇宙には、打ち上げ時の激しい振動、宇宙空間の温度環境、軽量化、修理できないことを前提とした信頼性といった特有の条件があります。それでも、要求から仕様を整理し、設計し、試験で確かめ、改善するという流れは同じです。同社は展開式アンテナの設計や検討のほか、さまざまな地上設備も設計・製作しました。具体的には、衛星組立用の専用治具、衛星を安全に横倒しにしたり回転させたりする設備、拠点間の運搬装置、クレーンで吊り上げるための治具、各種試験用の治具などです。宇宙へ飛んでいく部品だけが宇宙ビジネスではありません。宇宙機器を地上で完成させるための設備にも、機械設計、装置製作、FA、自動化、計測などの技術が求められています。
宇宙への挑戦は、社内にも変化をもたらしました。同社は、なぜこの設計で成立するのか、どの試験で何を確認するのか、何を合格基準とするのかを、事前に明確にするようになりました。この考え方は既存の産業機械事業にも還元され、設計段階での検討が深まり、製作後の手戻りを減らすことにつながったといいます。また、社員が自分の関わった仕事を家族や知人に話す機会も生まれました。さらに、地域の中小製造業にとって課題となりやすい採用面でも、宇宙事業は新しい人材に会社を知ってもらうきっかけになるとされました。

ispaceが描く月面開発と、サプライヤーとの新しい関係
続いて、株式会社ispaceの日達佳嗣氏が登壇しました。同社は、地球と月が一つの経済圏を形成する将来を見据え、月着陸船を利用した輸送サービスを中心に事業を展開しています。今後は、月周回軌道への衛星投入や、月面・月周回領域での通信、測位、観測などへサービスを広げる構想です。月着陸船には、さまざまな技術が組み込まれています。推進系にはエンジン、タンク、バルブ、配管などが必要です。構造系では、強度を保ちながら軽くすることが求められます。着陸制御にはセンサーやカメラが使われます。通信系には送受信機やアンテナ、電源系には太陽電池パネルやバッテリーが用いられます。月面で長期間活動するためには、厳しい温度変化や長い夜に対応するための熱制御、蓄電、電力管理も重要になります。こうした構成から、月着陸船は、機械、材料、電気、電子、ソフトウェア、通信、画像処理などが組み合わさった「ものづくりの総合格闘技」と表現されました。
月面輸送を継続的な事業にするには、着陸船の大型化に加え、複数の機体を効率よく製造できる体制が必要になります。そのためには、工程の標準化と再現性の向上、そして生産管理、検査、品質保証の仕組みが欠かせません。ここで、軽量構造、精密加工、薄肉溶接、配管、自動化、ロボット、画像検査、トレーサビリティー、生産管理など、地上の製造現場で蓄積された技術が役立つ可能性があります。宇宙メーカーとサプライヤーの関係についても考えが示されました。完成した仕様書どおりにつくってもらうだけでは、新しい課題に十分対応できません。開発の早い段階から課題を共有し、技術ロードマップ、生産計画、試験方法などを共有したうえで、リスクと成果を分かち合うアライアンス型の関係が重要になるといいます。

クロストークで浮かんだ現実的な課題
参加者からは、「社内で宇宙に取り組みたい人が一人いても、仲間を増やすことが難しい」という質問が寄せられました。オガワ機工株式会社は、自社でも当初は一人で活動を始めたと説明しました。すぐに全員の理解を得ようとはせず、活動を続けて小さな成果を見せながら、関心を持つ社員を徐々に増やしていったといいます。一定の段階に達したら、若い社員に役割を渡します。失敗の可能性があっても任せ、失敗を責めないことで、当初の担当者以上に主体的に動く社員が育ったと語られました。自動化についても議論がありました。現在の宇宙機器は一機ごとに仕様が異なる場合があり、薄肉配管の溶接のように作業者の高度な技能に依存する工程もあります。そのため、作業条件を数値化し、判断基準を言語化したうえで、人が担う工程と機械やロボットが担える工程を切り分け、段階的に自動化を進める必要があるという認識が共有されました。
宇宙産業では過去の実績が重視される傾向があります。一方で、宇宙企業の側も、国内にどのような技術や設備を持つ企業があるのか、すべてを把握しているわけではありません。クロストークでは、急きょ必要になった試験や加工に対応できる企業を探す中で、それまで知らなかった企業と出会い、具体的な依頼につながった例が紹介されました。最初の実績は、小規模な試作や試験、地上設備、治具、既存技術の転用などからつくる余地があります。そのためには、勉強会、相談会、展示会、ネットワーキングなどの場で、技術の内容や対応可能な加工、保有設備、過去に解決した課題を具体的に発信することが接点づくりになるとされました。

自社技術を「分解」して宇宙との接点を探す
講演とクロストークを通じて繰り返し語られたのは、宇宙産業を必要以上に特別視しないことの重要性でした。自社の強みは、「精密加工ができる」「装置をつくれる」といった大きな括りではなく、具体的な能力に分解して捉える必要があります。整理の例として、次のような項目が挙げられました。
- 薄く軽い部品を、必要な強度を保ちながら加工できる
- 微細な配管や薄肉材料を高品質に接合できる
- 重量物や精密機器を、傷つけず安全に搬送できる
- 作業者が間違えにくい治具や専用機を一品から設計できる
- 振動、荷重、温度などの試験設備を設計・製作できる
- カメラやセンサーを使って位置、形状、異常を検出できる
- 熟練者の作業を計測し、数値化、標準化できる
- 要件が固まっていない段階から、顧客と一緒に仕様をつくれる
このように自社技術を具体化すると、宇宙企業が抱える軽量化、品質安定、短納期化、自動化、試験、量産化などの課題との接点が見えやすくなります。最初の一歩は、大規模な設備投資や宇宙専用製品の開発でなくてもかまいません。自社の技術を棚卸しする、宇宙機器の構成や製造工程を知る、相談会で技術を伝える、小さな試作や試験に参加する、宇宙企業や既に参入している地域企業とつながる。こうした小さな一歩が、地上の産業を支えてきた技術を人工衛星や月面開発へとつなげる入り口になります。