AIと地政学リスクが変革するM&A市場:日本企業の競争力強化への提言
2026年8月18日、戦略コンサルティングファームであるベイン・アンド・カンパニーは、「変革期のM&A:AI・地政学時代に日本企業はどう競争力を高めるのか」と題したプレスセミナーを開催しました。
世界・日本のM&A市場の現状と「自己変革」の重要性
2025年の世界M&A市場は、前年比40%増(金額ベース)と幅広い回復を見せ、2026年もその高水準を維持しています。この回復は、企業のケイパビリティ変革を目的とした「スコープディール(変革型ディール)」の増加と、AI活用や地政学リスクに伴うサプライチェーン再構築への対応が牽引役となっています。スコープディールの比率は過去最高の60%に達し、50億ドルを超えるメガディールも相次ぎました。
一方で、企業のキャッシュ支出全体におけるM&Aの割合は、株主還元への圧力や、技術進化、サプライチェーン強靭化のための設備投資・研究開発といったM&A以外の資金使途との競合により、過去30年間で最低水準にあることが指摘されています。

日本のM&A市場も高水準を維持しており、2025年の取引総額は2,300億ドルに達しました。特に、日本企業による海外企業の買収(アウトバウンドM&A)が拡大し、2026年年初来でアジア太平洋(APAC)地域最大となっています。地政学リスクを背景に、安定した成長が期待できる北米市場への展開が目立ちます。AIや技術進化、グローバル化の後退など急激な環境変化に対応するため、企業の自己変革の手段としてM&Aの有効性がさらに高まっていると分析されています。

AIがM&Aにもたらす変革:投資判断と実務の効率化
AIはM&Aに多大な影響を与えています。まず「AI関連案件の増加」として、2025年には5億ドルを超える大型テクノロジーM&Aの45%がAIに関連する案件でした。AIモデルだけでなく、AIネイティブのハードウェア、データプラットフォーム、クラウドセキュリティ、データセンターといった周辺領域への投資も活発です。日本企業においても、半導体、AIアクセラレーター、データセンター、OTセキュリティ、AI人材など、AI時代に競争力を持つための投資が急増しています。
次に「投資テーマへのAI影響の加味」として、AIはすでに投資判断そのものを左右する重要論点となっています。調査によると、75%超の企業がデューデリジェンス(DD)において対象企業の事業に対するAIの影響(リスクと機会)を評価しており、その結果、27%が案件から撤退し、19%がバリュエーション(投資評価額)を引き上げています。これは、AIによる差別化リスクと、独自の顧客データを活用した生産性向上や新規サービス創出の可能性を見極めるDDが高度化していることを示しています。
最後に「DD実務でのAI活用」については、M&AプロセスにおけるAI活用割合が2023年の16%から2025年には45%に急増しました。手作業の削減、ディール期間の短縮、コスト削減などの効果がすでに実感されています。AIによって初期のデータ収集やパターン抽出といった調査時間が削減される結果、人間はより高度な「考える仕事(投資判断、仮説検証、コミュニケーション)」にリソースを集中させることが求められ、意思決定や価値創造プランの構築といった人間主導のプロセスが高度化し、「投資判断の質」が高まるでしょう。

地政学リスクの常態化とM&Aの「基本動作」
中東情勢の緊迫化によるコモディティ供給リスクなど、地政学的・マクロ環境の衝撃はM&A市場に影響を与え続けています。地政学的リスクは、「テクノロジーによる変革」「脱グローバル化によるサプライチェーンの戦略資産化・現地化」「プロフィットプールのシフト」というM&A市場を形作る3つの潮流をさらに加速させています。グローバル経済への逆風がある中でも、企業はこれらのトレンドを機会として捉えることが重要です。
過去のデータ(リーマンショック期を含む2007年~2017年の調査)によると、不確実な環境下でもM&Aを継続・蓄積した企業(大中規模案件を多数行う「マウンテンクライマー」や、比較的小規模な買収を繰り返す「シリアル・ボルトオン」)は、M&Aを行わなかった企業や少数の大規模買収に賭ける企業に比べて、中長期的に27%程度高い投資リターンを上げています。

不確実な局面で日本企業がとるべき実践アプローチとして、以下のM&Aの「基本動作」の重要性が提言されました。
- ポートフォリオの精査:資本市場からの厳しい目線を踏まえ、持ち続ける資産と売却・スピンオフすべき資産を現在・将来の両面から見極め、不断の入れ替えを行うこと。
- スクリーニングとDDの強化:特に業績が芳しくない企業を買いに行く場合、短期のターンアラウンド力や中長期の回復力を確実に見極める目利き力を備えること。
- 売却・スピンオフの視野化:買収のみならず売却まで視野に入れ、財務余力の確保や価値の顕在化につなげることでポートフォリオの不断の代謝を進めることこそが、不確実な環境下で中長期的な投資リターンを高める鍵となります。
ベイン・アンド・カンパニーについて
ベイン・アンド・カンパニーは、世界中の経営リーダーと協働し、最も困難な課題の解決と持続的な成果の創出を支援する戦略コンサルティングファームです。1973年の創業以来、プライベート・エクイティ・ファームやその投資先企業を含む幅広いクライアントとパートナーシップを築き、変化を先取りするために必要な能力の構築と、業界変革の実現を支援しています。
同社はクライアント推奨度において業界最高水準の評価を獲得しており、世界で最も働きがいのある企業の一つとしても継続的に高い評価を受けています。
詳細はベイン・アンド・カンパニーのウェブサイトをご確認ください。
https://www.bain.co.jp
セミナー登壇者
大原 崇(Takashi Ohara)
ベイン・アンド・カンパニー パートナー。20年以上にわたり、電機・電子機器メーカー、半導体、自動車、運輸等の幅広い業界の国内外クライアントに対し、全社ポートフォリオ戦略、成長戦略、コスト構造改革、国内外のM&A支援など多岐にわたるコンサルティングに従事。ベイン東京オフィスにおけるM&Aプラクティスリーダー。
呉 文翔(Bunsho Kure)
ベイン・アンド・カンパニー パートナー。ベイン東京オフィスのプライベート・エクイティプラクティスのリーダーの一人として、主にPEファンドを中心とした投資家のクライアントとの投資・ポートフォリオ戦略、ビジネス・デューデリジェンス、買収後のバリューアップ、売却戦略のプロジェクトをリード。M&Aプラクティスでもリーダーとして事業会社のM&A支援を提供しています。




