事業戦略と人事の整合性を記述で示す上場企業は1.6%に留まる——東証スタンダード・グロース市場全数調査

調査結果の主要な発見

調査の結果、事業戦略と人事の接続を具体的な記述で示せた企業(D 仕組み接続型)は、対象企業全体の1.6%にあたる34社に留まりました。これは、すでに運用している「現在形」の企業が27社、導入を予告する「予告」の企業が7社という内訳です。

事業戦略と人事の整合性調査 2026

接続の深さによる型分布(全2,140社・比率は構成比)

  • A 独立記述型: 827社(38.6%)
    人材の重要性や育成方針といった一般的な記述はあるものの、事業戦略との具体的な結びつきは示されていません。

  • B 言葉接続型: 460社(21.5%)
    「事業戦略の実現に資する人材の確保」といった抽象的な接続の言葉は見られますが、具体的な事業内容と人材戦略の関連性までは記述されていません。

  • C 取り組み接続型: 819社(38.3%)
    自社の事業内容(製品・技術・市場など)を理由として、人材の確保や育成といった具体的な取り組みが記述されています。

  • D 仕組み接続型: 34社(1.6%)
    報酬・評価・等級、育成体系、組織設計といった人事の仕組みが事業戦略と結びつき、具体的に記述されています。この型に分類されるには、戦略側の記述と人事側の記述から「この戦略だから、この仕組み」という論理が再構成できることが要件とされました。

  • F 外部参照型: 0社(0.0%)
    有価証券報告書内で実質的な説明がなく、外部資料への参照に留まる企業は存在しませんでした。

分布の中心はA 独立記述型とC 取り組み接続型に二分されており、約4割の企業が戦略と結ぶ記述を持たない一方、約4割の企業が事業を理由とした人材の取り組みまでを記述できています。しかし、その取り組みが人事の仕組みにまで具体化され、戦略と結ばれている企業は1.6%に留まる結果となりました。このことから、人的資本に関する情報を記述すること自体は一般的になっているものの、その内容が戦略と深く接続されているかどうかに差が生じていることが示唆されます。

調査の背景と経営リスクとしての含意

2023年3月期から義務化された人的資本開示は、2026年3月期からは経営方針・経営戦略等と関連付けた人材戦略や、それを踏まえた従業員給与等の決定方針の開示が新たに求められるようになりました。開示のルールは「人について書くこと」から「戦略とつなげて書くこと」へと段階が進んでいます。

これまでの人的資本開示に関する調査や報道はプライム市場の大企業に集中する傾向がありましたが、本調査は上場企業の過半を占めるスタンダード・グロース市場の約2,000社を対象とした初の全数調査です。これにより、これまで空白地帯であった市場の現状が明らかになりました。

有価証券報告書は投資家への公式な説明文書であり、そこに記述されていない内容は、読み手にとっては存在しないのと同義です。投資家は、人材戦略を成長戦略と結びつけて企業の持続的な成長性を判断しようとしています。また、求職者にとっても、戦略との接続が示されていれば、その会社で働く意味を戦略の言葉で理解できるため、接続の記述は採用市場と資本市場への説明力として重要性を増しています。

組織人事総合研究所の代表取締役である中北順也氏は、1.6%という数字について「個々の会社への評価ではなく、いまは接続を記述で示せること自体が際立つ段階にある、という観測です。『この戦略だから、この仕組み』と書けるかどうか。その点検は、経営が自社の記述と実情を突き合わせるところから始まります」とコメントしています。

レポートと今後の展望

本調査のレポート本文PDFは全文無料で公開されており、業種別の抜粋等を含む詳細版は、登録制(無料)で提供されています。
https://opri.co.jp/report

組織人事総合研究所は、本調査を毎年8月に実施する定点観測と位置付けており、今後も同じ物差しで測り続けることで、分布の変化を継続的に示していく予定です。また、接続の中身をさらに分解した第2弾レポートを2026年11月に発行する計画です。

調査概要

  • 調査名: 事業戦略と人事の整合性調査2026(組織人事総合研究所(OPRI)調べ)

  • 対象: 東証スタンダード・グロース市場の上場企業2,140社(母集団2,161社から人材に関する記述候補が抽出されなかった19社、処理未完了2社を除く)

  • 方法: 各社の直近の有価証券報告書を全数読み込み、事業戦略の記述と人事の記述の接続の深さを5つの型で判定。AIによる文単位の読み取り、文書化された判定ルールによる型の確定、人手による正解データ136社分との検証を実施。判定に迷う場合は接続の度合いがより浅い型に置くことを原則とし、境界の企業は同一条件で3回判定し多数決で確定。

  • 発行: 2026年8月

引用条件・会社概要

本リリースおよびレポートの図表・数値の転載は、出典として「組織人事総合研究所(OPRI)『事業戦略と人事の整合性調査2026』」と明記(Webの場合はhttps://opri.co.jp/へのリンク付き)すれば、事前の許諾なく自由に行えます。

組織人事総合研究所株式会社(OPRI、本社: 大阪市、代表取締役: 中北順也)は、「事業戦略×人事」—事業戦略と人事の接続—を専門とする調査・コンサルティング会社です。スタンダード・グロース上場企業約2,000社の有価証券報告書を全数で読む年次調査と、事業戦略と人事の整合性診断・検証・設計を提供しています。
https://opri.co.jp/