湾岸マンション市場の価格調整と流動性の変化
中央区および江東区の湾岸エリアにおける中古マンション市場は、現在、価格調整の局面を迎えています。これまでの価格上昇期とは異なり、成約に至るまでに平均で10%を超える値下げが行われるケースが一般化していることが、マンションリサーチ株式会社の調査によって明らかになりました。
調査概要
本調査は、マンションリサーチ株式会社が2023年1月から2026年6月までの期間、中央区・江東区の中古マンションを対象に実施しました。公開されている中古マンションの売出情報106,877事例を収集し、統計処理を施して集計されています。
市場の変化:在庫急増と値下げの常態化
港区・湾岸エリアで始まった市場の変化
これまで港区や中央区、江東区の湾岸エリアでは、全国的に見ても突出した価格上昇が続いていました。特に大型タワーマンションは、居住目的だけでなく国内外の投資マネーの流入先となり、実需だけでは説明できないほどの価格上昇を見せていました。円安や超低金利、都心部の新築供給不足などが追い風となり、「多少高くてもさらに値上がりする」という期待感が市場全体を支配していた時期が続いていた状況です。
2024年中盤から在庫が急増した理由
しかし、このような価格形成が長期間続いた結果、2024年中盤頃から市場に大きな変化が現れ始めました。特に高額帯の大型マンションを中心に売り出し件数が急増し、それまで低水準で推移していた在庫が急激に積み上がるようになりました。
これは、これまで「売ればすぐに売れる」と考えていた所有者が利益確定を目的に売却へ動き始めた一方で、その価格を受け入れられる買い手が減少し始めたことを示唆しています。つまり、価格は高止まりしたままでも、市場の流動性は徐々に低下し始めていたと言えるでしょう。
在庫は横ばいへ。しかし市場は回復していない
以下のグラフは、中央区・江東区の湾岸エリアにおける中古マンション在庫の推移を示したものです。


両エリアとも2024年中盤以降は在庫が急激に増加しましたが、直近の推移を見ると、その増加ペースは落ち着き、現在では横ばい、あるいは微減へと転じています。この結果だけを見ると市場が回復し始めたと捉えることも可能ですが、実際にはその背景に価格調整の動きが見られます。
値下げ率が示す「本当の市場価格」
各月の成約時における値下げ率を分析すると、2025年後半以降、湾岸エリアでは売主同士の価格競争が急速に激しくなっていることが分かります。

現在では平均して10%を超える値下げを経て成約するケースが一般化しており、これまで強気だった売主も価格を修正しなければ売却できない状況になっています。これは、在庫が横ばいまたは微減となったのは需要が急回復したからではなく、多くの売主が価格を大きく引き下げた結果として、ようやく成約が成立するようになったためと考えられます。
現在の湾岸エリアでは、売り出し価格ではなく、そこから約10%値下げした価格帯が市場参加者に受け入れられる水準、すなわち現在の実勢価格になっていると分析されています。
金利上昇が高額マンション市場を変えた背景
このような変化が2024年中盤から始まった大きな要因として、日本銀行によるゼロ金利政策の解除が考えられます。2024年に政策金利が0.25%へ引き上げられ、日本は「金利のある時代」へ移行しました。このタイミングと、高額マンションの在庫増加が始まった時期はほぼ一致しています。
政策金利が上昇すると、住宅ローン金利も時間差で上昇します。特に湾岸エリアのように1億円を超える高額マンションが多い市場では、借入額が大きいため、わずかな金利上昇でも毎月の返済額や総返済額に与える影響は非常に大きくなります。その結果、実需層の購入可能価格は低下し、これまで購入できていた層の一部が市場から離脱しています。
また、湾岸エリアは国内外の投資家からも高い人気を集めてきましたが、金利上昇局面では投資家も慎重になります。借入コストの上昇によって投資利回りは低下し、将来の値上がり期待も徐々に縮小します。その結果、これまで価格を押し上げてきた投資需要も以前ほど積極的ではなくなっています。
つまり、湾岸エリアでは実需・投資需要の双方が弱まりやすい構造となっており、その影響が他エリアよりも顕著に現れていると言えるでしょう。
今後の見通し:10%の値下げは通過点か?
日本銀行は今後も政策金利を段階的に引き上げる可能性があります。住宅ローン金利がさらに上昇すれば、購入できる層はさらに限定され、市場の流動性は一段と低下することが考えられます。現在平均で約10%の値下げが行われていますが、これは現時点の金利環境に対応するための第一段階の価格調整と考えることもできます。仮に今後も金利上昇が続けば、市場が再び十分な流動性を取り戻すためには、現在以上の価格調整が必要になる可能性は十分あります。
「価格」よりも「流動性」が重要になる市場へ
今後の湾岸マンション市場を分析する上で重要なのは、単純に価格が上がったか下がったかだけではありません。「どの程度値下げすれば成約しているのか」「販売期間は短くなっているのか」「価格調整を伴わずに在庫が減少しているのか」といった流動性の変化を確認することが、市場の本当の姿を把握する上で欠かせません。
湾岸エリアでは、これまでのように価格だけが上昇する局面から、市場参加者が受け入れられる価格まで調整しながら流動性を回復させる局面へと移行しています。これからのマンション市場では、「いくらで売り出しているか」ではなく、「いくらで売れ、どれだけスムーズに取引されているか」が資産価値を判断する重要な指標となるでしょう。価格の高さだけで市場を評価する時代から、流動性を重視して市場を分析する時代へと変化しつつあります。
筆者プロフィール

福嶋 真司(ふくしましんじ)
マンションリサーチ株式会社 データ事業開発室 不動産データ分析責任者
福嶋総研 代表研究員
早稲田大学理工学部卒。大手不動産会社にてマーケティング調査を担当後、建築設計事務所にて法務・労務を担当。現在はマンションリサーチ株式会社にて不動産市場調査・評価指標の研究・開発等を行う一方で、顧客企業の不動産事業における意思決定等のサポートを行う。また大手メディア・学術機関等にもデータ及び分析結果を提供。
マンションリサーチ株式会社について
マンションリサーチ株式会社は、不動産売却一括査定サイトを運営しており、2011年創業以来「日本全国の中古マンションをほぼ網羅した14万棟のマンションデータ」「約3億件の不動産売出事例データ」及び「不動産売却を志向するユーザー属性の分析データ」を収集してきました。これらのデータを基に集客支援・業務効率化支援及び不動産関連データ販売等を行っています。
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会社名: マンションリサーチ株式会社
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代表取締役社長: 山田力
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所在地: 東京都千代田区神田美土代町5-2 第2日成ビル5階
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設立年月日: 2011年4月
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資本金 : 1億円




