人事課題の重心は「定着・活躍支援」へシフト、戦略人事と企業業績の関連性が明らかに – パーソル総合研究所「人事部トレンド定量調査2026」

調査概要と主要な発見

株式会社パーソル総合研究所は、「人事部トレンド定量調査2026」の結果を発表しました。この調査は、企業の経営・人事課題と主要な人事領域のトレンドを把握することを目的としています。

現在の労働力不足を背景に、経営課題は「ヒト」に集中する傾向が見られます。同時に、AIの普及や働き方改革など、人事部を取り巻く環境は大きく変化しています。調査結果によると、人事課題の重心は2021年の調査と比較して、既存人材の「定着・活躍支援」へとシフトしていることが明らかになりました。また、人事部が経営戦略へ関与する企業ほど、売上高や利益率が増加する傾向が確認されています。

戦略人事の実現には、「処遇の市場化」や「職務範囲の脱・属人化」など5つの要素(5 Essentials)が重要であることも判明しました。一方で、人事部の多くが人員不足や専門性不足に悩み、「攻め」の領域への関与が不足している実態も浮き彫りになっています。

人事部の戦略的パフォーマンス

経営・人事課題と人事部の現状

経営課題は「人材と組織の変革」が中心

経営課題の上位には、「人材の確保・採用競争への対応」(53.9%)、「人材育成・リスキリング・最適配置」(45.3%)、「DX・AIを活用した業務変革・新たな価値創出」(38.2%)が集中しています。これは、現在の経営において「人と組織の変革」が中心的な課題であることを示唆しています。

自社の経営課題

人事課題の重心は「定着・活躍支援」へシフト

人事課題では、「従業員満足度・エンゲージメントの向上」(36.0%)、「最適な人員配置」(35.7%)、「従業員の定着/離職防止」(35.6%)が上位に挙げられています。2021年の調査と比較すると、従業員全体の能力向上や企業理念の浸透などへの課題感が低下し、既存人材の活躍・配置・定着を高めることに重心が移っていることが分かります。

人事の課題感

人事部は実務運用を主導、戦略・DX領域への関与は限定的

人事部は「新卒採用」(79.1%)や「中途採用」(61.2%)、「人事考課・評価の調整」(48.5%)といった実務運用において高い主導性を示しています。一方で、「経営戦略・事業戦略の策定」(14.4%)や「DX・デジタル化・AI活用の推進」(9.0%)といった戦略領域への関与は低水準に留まっています。

人事部の内部課題としては、「人員不足」(45.2%)、「専門性を持つメンバーが不足している」(44.6%)、「人事部門の企画構想力が低い」(39.3%)などが上位を占めており、業務量に対して十分な体制や専門性が確保しきれていない現状が明らかになっています。

人事部門が主導・関与する施策

人事部の内部課題

戦略人事の実現と企業業績

人事部の「戦略的パフォーマンス」が高い企業は企業業績も高い

人事部の戦略的パフォーマンスが高い企業は、低い企業と比較して、直近1年間で売上高・利益率ともに増加した割合が高いことが確認されました。戦略的パフォーマンス高群では、売上高が増加した企業が66.6%(低群43.1%)、利益率が増加した企業が58.9%(低群30.5%)と、顕著な差が見られます。この結果は、人事部が経営戦略へ関与することと企業業績との関連性を示しています。

「戦略的パフォーマンス」を引き上げる5つの要素(5 Essentials)

人事部の戦略的パフォーマンスにポジティブな影響を与える要素として、以下の5つが特定されました。

  • 職務範囲の脱・属人化: 仕事と人材要件の対応関係を明確にする

  • 処遇の市場化: 市場と貢献に応じて報酬・評価に差をつける

  • タレントデータの一元化: 人材情報を統合し配置判断に活用していく

  • 自律的キャリア選択: 個人が主体的にキャリア機会を選べる

  • 社内/外の雇用流動化: 雇用形態・勤務形態・外部副業の自由度を高める

戦略人事のための5つの重要な要素

これらの要素の実態を見ると、「管理職は、同じ職務であっても、担当する人物の能力や経験により等級が異なる場合がある」に半数超(57.1%)が当てはまる一方で、「昇格・降格の基準を明確に共有している」(22.2%)や「評価は貢献に応じて十分に差がつけられている」(26.6%)といった項目は2~3割の企業しか実現できていません。

戦略的パフォーマンスを阻害する要因としては、「人事部門の企画構想力が低い」(39.3%)、「人事部門と事業部門のコミュニケーションが不足している」(36.4%)、「人事部門全体に共通するビジョンや目的がない」(33.1%)が挙げられています。

人事部の戦略的パフォーマンス向上のための5つの要素の実態

戦略的パフォーマンスにネガティブに影響する要素

人事領域の最新トレンド

AI活用企業は「デジタル人材増員・一般事務削減」を見込む

AI活用度が高い企業ほど、1年後に「一般事務職」を削減する見込みが42.5%と高い一方、「デジタル・IT系」は56.3%が増員を見込んでいます。これは、AIの導入が職種構成の変化を促していることを示しています。なお、人事部自身のAI日常活用は約4割に留まっています。

AI活用度別 | 1年後の人員増減の見込み

人事部におけるAI活用状況

賃上げ予定企業は73.0%に拡大、判断基準は「人材確保」へ

2026年度に賃上げを実施・予定している企業は73.0%に増加しました。賃上げの判断要素では、「物価動向」(29.7%)が最上位であるものの、2022年調査と比較すると「予算達成度や業績の良し悪し」の重要性が大きく低下し、「従業員の離職抑止」(26.2%)や「優秀人材の採用強化」(24.0%)など、人材確保を意識した判断が重視される傾向が見られます。

賃上げ動向の変化

賃上げ判断のための要素

働き方改革は浸透するも、約4割が「管理職の負担増」を課題視

フレックス勤務制(30.5%)やノー残業デー(29.8%)などの働き方改革関連施策は広く普及しています。しかし、約4割の企業が「管理職への負担が増えた」(40.7%)ことを弊害として挙げています。残業施策の数が多い企業ほど、管理職の負担感が増加する傾向が見られました。

働き方改革関連の実施施策

働き方改革の弊害

調査結果からの提言

現在の労働力不足の状況において、企業の経営課題はますます「ヒト」の課題に集中しています。これに伴い、人事課題の重心は、既存人材が長く活躍し続けるための「定着・活躍支援」へとシフトし、「攻め」よりも「守り」の姿勢が鮮明になりつつあります。

AIの組織普及や次世代リーダー育成など、経営戦略的な領域への人事の関与が限定的であることは、現代のビジネス戦略に人事が取り残されかねない側面を示しています。本調査からは、人事が戦略的にパフォーマンスを発揮するために、「処遇の市場化」、「職務範囲の脱・属人化」、「タレントデータの一元化」、「自律的キャリア選択」、「社内/外の雇用流動化」という5つの要素が重要であることが抽出されています。これらの要素を推進しつつ、ビジョンや企画構想力の欠如、事業部門との連携不足といった阻害要因を克服することが求められます。

人事部門が取り組むべき具体策として、以下の点が挙げられます。

  • 自社の事業戦略を見据え、自らの組織目的を問い直し、戦略人事を推進するための人事ポリシーを定めること。

  • HRBP(Human Resources Business Partner)を主軸に、事業戦略と人材戦略を再接続すること。

  • 人材データの一元化による配置・育成の高度化を進めること。

  • 経営とのコミュニケーションを密にし、自社ビジネスへの感度を高めること。

  • 従業員の報酬と市場価値との乖離を埋めていくこと。

AIが経営戦略にますます組み込まれていく中で、「人と組織」の意思決定が人事の外側で進めば、人事部が存在感を失う事態になりかねません。このような取り組みを通じて、人事部門が実務運営の担い手から、経営と事業の成長を支える戦略パートナーへと進化することが期待されます。

調査概要

  • 調査名称: パーソル総合研究所「人事部トレンド定量調査2026」

  • 調査内容: 企業の経営課題・人事課題と、人事施策の実施状況を明らかにし、主要な人事領域のトレンドを把握する。

  • 調査対象: 全国の係長以上の正規雇用者および会社経営・会社役員、20~64歳男女、企業規模300名以上の企業に勤務する者 n=2,000。

  • 調査方法: 調査会社モニターを用いたインターネット定量調査

  • 調査時期: 2026年3月4日 – 3月16日

  • 実施主体: 株式会社パーソル総合研究所

調査概要

詳細レポートについては、パーソル総合研究所のウェブサイトをご覧ください。